歴程神話

 昨日『戦後派(アプレゲール)の研究』が終わった。最後はロシア神話とアメリカ神話について、座談会をしていた。どうやら鶴見俊輔の発題のようにみえる。ロシア、アメリカに対する過剰な期待のことを言っている。具体的には出てこなかったが、これらの国に対する嫌悪も神話のうちに含んでいる。要するに、現実的なものを捨象して、イデオロギー的な期待を注入する心性のことであろう。

 ロシア神話の話題の中心は、シベリアからの帰還兵たち。当時のソ連でしっかり民主主義を教育されてきた人たちのことが語られている。今でいえば洗脳、ということになるのであろう。しかし、これらの人たちが日本の共産党に入党する率は高くなかったらしい。菅季治のことがでてくる。ロシア語の通訳として徳田球一の言葉を訳したが、これが問題となってその後自殺してしまう。多田茂治の『内なるシベリヤ抑留体験―石原吉郎・鹿野武一・菅季治の戦後史』に出てくる人。シベリヤ帰還兵というのは、世間では教育された人と見えていたのであろう。石原が親戚からアカでないと証明しろ、と言われたのは有名な話である。

 一方、アメリカ神話は今でもあまり変わらないかもしれない。ロシア神話は今では通用しないが、こちらは今も脈々と続いている。アベソーリもそうである。座談会では、中途半端に負けないで、徹底的に負けるべきだ、という意見も出ていた。坂口安吾と同意見ということなのであろう。終戦ということで話を濁すのではなく、きちんと敗北しろ、という話である。

 様相はまったく違うが、このロシアとアメリカの比較だけみれば、戦中の近代の超克座談会と同じだ。この座談会では、アメリカの風俗とロシア文学が対比されていたように思う。中国はどちらにもあまり影を落としていない。一番近い地域を最初に視野から外すのは、明治以降の伝統なのであろう。

 今朝はまた『名作集』シリーズにもどろうと思ったが、昨日の歴程編『現代詩集』が気になり、これをもって家をでる。実はつまみ食いしただけで、ちゃんと読んでない。頭から読み始める。会田綱雄のところは以前読んだ。詩集『鹹湖』に出ている短い詩(上海を題材にしている)が、この文庫では長い詩篇になっている。詩集ではこれを削って作り直したわけだ。この詩には、和平飯店がでてくるが、詩集版では確かでてこない。このホテルはサッスーンが住んでいた建物で、頭が三角になっている。エンパイヤステートビルを模したもの。ニューヨークでは当時の法律で、敷地面積に対して建物の体積が制限されていた。なので、背を高くするために頭を三角にした。でも上海ではそんな必要はなかったろう。

 このビルから北に行くとガーデンブリッジがあて、ここを渡ると、児玉機関が陣取っていたブロードウエイマンションが立っている。八十年代、このビルにはディスコがあった。この横をさらに北上すると、日本租界がある。といっても、正確には租界地ではなく、単に日本人が多く住んでいた地域であった。歴程の草野心平も会田綱雄同様、中国にいた。歴程は中国神話につながるのであろうか。

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